9月15日、ヤマハ大久保グラウンドで行われた練習試合、
ヤマハ発動機ジュビロ対三菱重工相模原ダイナボアーズ戦。
日本人初の「ラグビープロレフリー」として、世界へ挑戦を
続ける平林泰三さんが、主審として大久保グラウンドへ登場。
試合後、お話を聞かせていただきました。
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―世界各国を飛び回る忙しい生活が続いています
平林「忙しいですね。先週もスリランカへ行き、おととい帰国して、
今日、この試合で笛を吹き、あさってからは、パリにワールドカップ
自主研修という形で、行きます。準々決勝までの20日間、試合を生観戦する
というより、レフリーの運営や、レフリーコーチをはじめ、
いろいろな方から、コーチング等を受けることが、主な目的です。
でも、ジャパン対ウェールズの試合は、楽しみにしていますよ。
シーズンもいろいろと忙しいですが、先週7人制(※1)の大会に参加して、
次はパリで研修です。20日間の研修中は、笛を吹く機会が
ほとんどありません。今回、日本滞在が3日間と、短く忙しい時間の
中でも、自分としては、積極的にグラウンドへ足を運び、笛を吹く。
それは、トップリーグに照準を合わせ、レフリーマインドを7人制から、
15人制へ変えていく、という意識も含め、今日の練習試合は、僕にとって重要でしたね」
―トップリーグが始まれば、基本的に、日本で笛を吹く予定ですか?
平林「現状では、日本の試合で、笛を吹く予定です。ただし、
IRBセブンズ大会(※2)へ、どれぐらい行くのかが、まだわかりません。
去年に引き続き、行くことになれば、15人制(※3)をやりながら、
7人制、そして15人制の笛を吹くという、繰り返しですね」
―レフリングの中で、心がけている事は?
平林「たくさんありますよ。その中で、1つ例を挙げるとすれば、選手が
ゲームマネージメントをしっかり出来るよう、いろいろなものを、選手へ
返してあげることですね。例えば、勝負のあやだったり、試合時間の使い方とか。
そういったものを、できるだけレフリーが持たずに、選手へどんどん返す
作業をやります。基準作りも同じことです。まず、しっかりと基準を示し、
あとは選手自身に判断させることです」
―レフリーとして、7人制と15人制の切り替えは難しいですか
平林「やはり、難しいですね。それは、試合時間の感覚だったり、
プレーする人数が関係してきます。人数が多いと少ないのでは、
コンテストの部分で、見極め方が少し違ってきます。7人制は、グラウンドで
プレーする選手が少ないので、そのあたりを、結構早く判断できますが、
15人制の場合、サポートプレーヤーも多いし、コンテストの時間を、
7人制よりは、長く見る必要があります。そういった部分も含めて、試合を
見る目が違ってきます。目を慣らす必要がありますね」
―7人制と15人制のレフリングを、切り替えるために、心がけていることは?
平林「リラックス方法というか、マインドセットの部分ですよね。
7人制の試合時間は、7分―1分ー7分(※4)の14分で
終わりますが、15人制は、40分ー10分ー40分(※5)で、
それにエクストラタイムを入れ、約90分です。時間だけみても、
ゲームプランが違います。
レフリーは、7人制にくらべ、もう少し複雑なゲームプランを持って、
15人制の試合に臨みます。それには、頭の中を、もっと立体的に
するよう、心がけています。選手は、勝負かかっていますから」
―平林さんの趣味を教えて下さい
平林「趣味は、映画を見たり、音楽を聴いたりとか、いろいろありますよ。
他には、半分レフリングの向上に近いと思うのですが、趣味を兼ねて、
海外の文化に触れるようにしています。
海外遠征は、ナショナルチームの試合を吹く機会が多いです。そうした場合、
当たり前ですが、対戦するチームや選手は、日本と違う文化からきています。
日本でも、地域で人間性が違うし、その土壌によって、育ってきた人間が
違うじゃないですか。海外も同じで、アルゼンチンで育ってきた選手、
オーストラリアで育った選手、イギリスの文化の中で育つ選手ように、
各文化で人間性が違ってきます。
僕は、海外へ行った時、できるだけ、文化的な活動をしようと心がけて
います。例えば、その土地にある美術館や博物館へ行き、遺跡や町を
訪ねます。そうすることで、その土壌で生きてきた、育ってきた選手の
気質がだんだんとわかってきます。それがわかれば、僕が吹く試合に
対して、チームや選手へのアプローチが、変わってきます」
―これからの目標を教えて下さい
平林「近い目標として、国内は、毎年、自分のレフリングの向上に関して、
いくつかのターゲットを設定しています。それを、しっかりこなして
いくことです。去年は、レフリングの活動自体が、テクニカルの部分に、
大きく力を入れていました。試合を分析して、ゲームを細かくみることで、
自分のレフリングも細かく分析していました。プレーを小さく切り貼りし、
その正確性を積み重ねていく活動でした。
今年、僕がターゲットにしている一つに、もっと全体を包括的にみて、
ナチュラルにゲームへ入っていける様な、レフリングをすることです。
今は、それを目指し、頑張っています。
海外に向けての目標は、自分の枠取り、次のステップを踏むための、
1つステージを上がったところのチャレンジです。そして、結果を残すことですね!」
(※1)7人制:1チームあたり7人のプレーヤーでおこなうラグビー。
フィールドは、15人制と同じ
(※2)IRBセブンズ大会:IRB公認の7人制ラグビーにおける国際大会の総称
(※3)15人制:1チームあたり15人のプレーヤーでおこなうラグビー
(※4)7分―1分ー7分:7人制ラグビーの試合時間。
前後半7分と、ハーフタイムが1分の計14分
(※5)40分―10分ー40分:15人制ラグビーの試合時間。
前後半40分と、ハーフタイムが10分
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日本人初のプロレフリーとして、IRBセブンズ大会等の世界を
舞台に活躍し、成長を続ける平林さん。実は、スリランカで行われた
7人制大会から帰国したのが13日。17日には、ワールドカップが
行われているパリ@フランスへ向け、出発するという忙しい日程を聞き、
驚きました。
短い日本滞在時も、積極的に笛を吹き、常にレフリーマインドを
高く保ち続ける。世界を肌で感じ、各国の文化に触れ、それを
理解しながら、交流を深める。今回、そういったお話を聞かせていただき、
たくさんの力と共に、世界へ通じる道を切り開いてきた「強さ」、
そして世界を舞台に活躍する平林さんは「すごい!」と感じました。
若手レフリーにとって、平林さんの存在は「憧れ」、そして「目標」です。
これからも、成長を続け、世界で活躍する姿に、声援を送ります!
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<こぼれ話>
「パスポートのスタンプ欄、あと2ページなんですよ」
世界各国を飛び回る平林さんの、パスポートは2冊目。
3冊目に突入となるか?
爽やかな笑顔が、魅力の平林さん。帰り支度で忙しい中、
「月へ帰らなきゃ~」と、冗談が飛び出す、明るい雰囲気で、
お話を聞かせていただきました。本当にありがとうございました
(1975年生まれは、うさぎ年)
平林泰三(ヒラバヤシ タイゾウ)
1975年4月24日生、宮崎出身。
2005年8月より、日本初の「フルタイムレフリー」として活躍。
また2006年10月にはアジアから初のIRB公認国際レフリーとして、
IRBパネル・レフリーに選出。7人制大会を中心に、世界各国を
舞台に活動。